漆塗り 一般, 漆塗り 仏壇, 漆塗り 屋台

文明の利器

 

春のお納めに向け奮闘しております。慣れない季節感に翻弄されています。

漆塗りは適した環境を必要とします。主には温度と湿度。
温度は低すぎても高すぎても硬化は遅くなります。
湿度は低いほど硬化は遅いです。

過去の経験を思い出し、少し考察してみました。

硬化スピードは、

最早:適温高湿度[20℃ 90%]
2:適温適湿度[20 ℃ 70%]
3:高温高湿度[30℃ 90%]
4:低温高湿度[ 5 ℃ 90%]
5:適温低湿度[20℃ 30%]
(=?)低温適湿度[ 5 ℃ 70%]
(=?)高温適湿度[30 ℃ 70%]
6:高温低湿度[30℃ 30%]
最遅:低温低湿度[ 5℃ 30%]

下に行くほど遅くなります。全ての条件をきちんと試したわけではありませんのであくまで経験則です。(気温30℃で30%とか気温5℃で90%なんて極端な環境であって、本来そんな時に塗りません。)

おもしろいのは、単純な数値の上下のみで計れるものではなく組み合わせだということです。

 

硬化スピードが早すぎるとどうなるか。下のように表面のみ著しく硬化し、塗り肌に指紋のような縮みが現れます。

 

一方もうひとつ温度に関して言いますと、漆は温度で粘性が変化します。温度が高いと柔らかくなり、温度が低いと固く(粘り気が強く)なります。

柔らかいと塗り拡げ易いですが、タテ面は流れます。
固いと流れにくいのですが『コケ』てくれません。コケる、とは「均れる」こと。適度な粘りの漆なら、塗った直後にはよく見える刷毛の跡がじんわりなだらかに馴染みますが、粘り気が強いと刷毛目がそのまま残りがちになります。

 

例年屋台屋根の漆塗りは初夏から秋口が多く、冬に塗ることにあまり慣れていません。

もちろん仏壇等は年中塗るのですが小さい容積でのムロで最適環境を作りやすく、対応可能です。けれど祭りものは部屋全体の環境コントロールを求められ、すんなりと運ばないのです。

今週は長雨。除湿器をフル稼働しています。

こんなとき思います。昔の人はすごい。
なんにも設備なく塗ってたのですから。

温度湿度管理のたいそうな設備のまえに、もっと根本的なこと、
昔は照明すらなかった。外の明るさのみ。

ただ、漆は埃を嫌うので全開放もできません。
うーーーん、どうやって綺麗に塗っていたんだろう。

 

そんなことに思いを巡らせると、まったく弱音や愚痴は言ってはいけません。がんばります。