砂川仏檀店

互いの期待を超え合い、
力を尽くす真剣勝負。

砂川漆工芸が手がける仏壇や祭り屋台は、
播磨を代表する技の
コラボレーションから生まれます。
それは絶えず高みをめざす姿勢や
感性、技術、経験がもたらす産物。
ここでは、これまでにない厨子づくりに挑む
クラフトマンの生の言葉をお届けします。

塗師

塗師 ぬし

砂川隆

砂川漆工芸

主役は漆、漆の機嫌を聞くんです。

2010年から一通り任されるようになりました。37歳、15年目でしたね。継いだのは2017年、前の年のおわりくらいになって父から「来年からお前せぇ」って。

漆塗りの下地って、1層だけやなくて重ねるんです。重ねて重ねて、研いで面を整える。それが最終のシルエットなんです。祭り屋台はそれが顕著で、骨と肉の融合関係。
白木の状態が骨で、下地という肉を盛ることによって大工さんが思い描いたであろうラインにします。塗りは皮膚、表面的には皮膚しか見えへんけど、実は肉が形をつくってる。特に祭り屋台は、25層重ねる中で、20層が下地です。

砂川隆

漆って、そのままできれいんですよ。失敗なんかもしながらたどり着いたのは、漆の邪魔したらあかんなということ。漆という天然素材には、それぞれの漆が一番乾きやすい(硬化しやすい)環境があるから、ぼくらはそれを整えるだけです。乾かし方を知らんかったらいつまでもベチャベチャになったり、乾きすぎると表面が縮んだり。厚すぎると垂れますし、薄すぎると刷毛目が消えない。職人の「俺が俺が」みたいなものは不要で、主役は漆。漆の機嫌を聞くんです。

砂川隆2

厨子をつくった一番最初は「ちっさいのでいいんや」っていうお客さんがおられて、次は、その時の写真を見た人が「これえぇやん」となって。で、次の作品をつくってホームページに写真を載してたら、また「えぇやん」って。
このたび新しく造った厨子は「何時間でも見ていたいと思ってもらえる、本物でちっさいもんつくろう」というのが、もともとの想いです。お仏壇は手を合わせる先の大事な人のことを思い出す、気持ちを変える場所。感謝する場所っていうかなぁ。だからその前に行ったら心が手を合わすよう、心が向かうように、自然に気持ちが変わるようにしたいです。

想像を超える厨子をつくりたいと思った時に、想いをちゃんと汲んで形にしてくれて、期待を裏切らへん職人さんを選びました。けっこうね、お三方に無理を言うてるんです。ココはこんな感じで、と大まかに想いを伝えたうえで、あとは任せるのでええと思うようにつくってくださいって。実はこの「ええと思うようにしてください」という頼み方をした時に、職人は一番腕をふるいます。できあがったものをええもんやと思ってる、ということですから。

塗師は、仏壇に限って言うとプロデューサー。京都とかだと下地は下地だけ、塗りは塗りだけの分業制が多いんですが、うちは全部です。木地、彫り、金具は職人さんにお願いしますけど、企画して発注して、下地、塗り、蝋色(ろいろ)、組み立てまでね。自分のスタイルを持ってないとあかんし、提案できないとあかん。言い方変えたら、提案できる幸せな立場です。

結局、お客さんを喜ばせたい、それだけなんです。「こんなきれいなん見たことない」って感じてほしい。期待を裏切らんと想像を超えたいんです。本職の本気でね。
(平成29年12月21日談)

略歴:昭和48年生まれ、「砂川漆工芸」3代目・砂川弘征の二男。平成7年に「砂川漆工芸」で修行を開始。平成28年、兵庫県技能顕功賞を受賞。

宮殿師

宮殿師 くうでんし

奥居隆夫

奥居仏檀宮殿工房

数えきれない部品を組み立て、屋根をつくる。

28歳で、この道に。自分で何かつくりたいと思ったんです。親方は6つ上の兄で、弟子入りした次の日から横に座らせてもらって、いろいろやらせてくれた。ラッキーやったね。6年後に独立しました。もう40年以上になりますが、途中で辞めようと思ったことはないねぇ。ものをつくっていくっていうのは毎回、達成感があるから。

宮殿師は、お寺や神社の建築と同じように数えきれない部品を組み立てて屋根(宮殿)をつくるのが仕事です。業界では、屋根屋さんと言われてます。仏壇の屋根は、宗派によって違うんです。決まりごとがいろいろある。細かい部品をひとつずつ手作業でつくって、最後に組み上げます。工程としては、図面を書いて寸法どおりに切る木取り、削り、彫り、組み立てと進みます。

奥居隆夫

砂川さんから依頼のあった厨子(ずし)の材料は、檜(ひのき)とベニ松。初めての作業があって、やり甲斐がありました。屋根が横だけやなく、前にも反ってる。見本の写真を見してもらって、寸法聞いて。僕、このやり方はしたことないなぁ、やり方考えてみますぅ言うて。結局、道具やね。この道具つこたらできる、というのがある。難しかったけど、やってみるとアクセントがついてなかなかえぇなぁと思って。で、こないなるんやけどと見せたら、ここをもっと広くしてくださいとか、けっこうありました。

奥居隆夫2

僕らは、塗師さんが塗りやすいよう、全部ばらせるように組み立てます。塗師さんによって塗り方の癖ゆぅか下地の厚みが違うから、塗ってから組み立てたらピタッと合うように、すきまを空けとくんです。木と木を接着するのを接ぐ(はぐ)と言うんやけど、そっとしといて7~8時間はかかる。それをじぃっと待っとくわけにはいかへんから、その間に次の工程にかかる。どんな時でも、今やってることより先のことを考えて、段取りよくやっていきます。

器用は練習したらうまいこといけるけど、センスは持って生まれたもんと、いいものを見ることやね。僕らやったらお寺なんかを見て、この屋根きれいなぁ、かっこいいなぁ、どないしたら仏壇の屋根に応用できるかなぁとか。一番はいい親方について、いい仕事を見ることやね。僕の親方の親方は超一流やった。他には、刃物の切れも大事です。(平成29年11月15日談)

略歴:昭和21年生まれ。6年間の修行の後、親方である兄から独立、姫路市で「奥居仏檀宮殿工房」を営む。平成12年、兵庫県技能顕功賞を受賞。播磨ものづくり楽人会会員、書写塗伝承協会会員。

木彫刻師

木彫刻師 もくちょうこくし

大木光

大木彫刻店

彫って彫って、ほんまもんに見えるように。

もう30年、やってます。もちろん、全部手作業。図案を描いて、貼った紙ごと彫っていきます。細かいと写せないから。僕らの仕事はスパンが長いんです。がまんしてがまんして、彫って彫って彫って、それで仕上がる。彫刻って、取っていく作業なんです。マイナスにね。彫りすぎたら折れてしまうから、細かいところを残して全体を彫っていって、最後にえぇ頃合いが来るように持っていく。いっぺんにザクザク彫るんやなしに、彫り急がない。難しいんですよ、ほんま苦しい。そこを乗り越えて、お客さんに喜んでもぅたり、みんなで一緒につくって完成した時に達成感がある。それがあるから、がんばるんやと思います。

大木光1

砂川さんから新しい厨子(ずし)をつくりたい、こんな感じで彫ってほしいと依頼された時は、なかなか難しいことを言われたなと思いました。小ぶりやけどクオリティの高いものをって。塗った時や箔を押した時の軽やかさを意識して仕上げました。

大木光2

砂川さんとの仕事は、毎回チャレンジです。十数年前に出会うまで祭りの屋台ばっかりで、仏壇の仕事は知らなかった。たどっていくと、僕らがやってる播州彫りは仏壇の仕事から来とんやなっていう発見があったんです。彫って彫って、ぐわぁっと彫りくだいて、松を彫るんやったら奥から枝が伸びてるように、ほんまもんに見えるように深みを出す丸彫りは仏壇ならでは。僕は細かい彫刻が好きなんで、仏壇の仕事が屋台づくりにいかせることも多いです。ダイナミックな中に透け感があったり、間(ま)があったりね。

かっこよさは、総合力。全体的なクオリティが高いことやね。もちろん細部も重要やし、切るのも彫るのも塗るのも、全部の工程でクオリティを高く持っていかんと。よく、仏像の本を見ます。仏像って、昔から今の時代まで変わってないんです。そういう古いものから、伝統的な技法はどうなっとんかを見る。時代の流れもあるんかもしれませんけど、昔の方が凝縮されてるんです。仏像の光背(こうはい)、後光とかね。同じ図案で同じ場面を彫っても、やり方は人それぞれ違いますよ。その差は…センスかなぁ。センスあっての技やろね。センスだけあっても彫れへんしね。(平成29年11月15日談)

略歴:昭和47年生まれ。昭和63年、富山県の伝統芸能である井波彫刻の伝承者・柳沢英一師に入門。平成6年に独立し、「大木彫刻店」を開業。繊細な人物の表情、独創的な躍動感の表現に定評が。

錺金具師

錺金具師 かざりかなぐし

谷口秀作

彫るというより打ち込む、最後の工程。

この道に入って40年くらいかなぁ、独立してからは30年弱。漫画とか絵を描くんが好きで、小学校3年生くらいから描いていたのが今にいきてると思います。けど当時は、好きな絵で生きてく仕事がしたいとは思ってなくて。親方がたまたま近所に引っ越して来て、声をかけてくれたんです。

錺金具は最後の工程、装飾の一つです。飾りだけやなく、蝶番(ちょうつがい)もつくります。昔からある伝統的な仕事やから、ある程度のことは修行したらできるはず。けど、ちょっと変わったものとか、よそに無いものをっていう注文に応えるにはセンスが要る。下絵が描けて、こんなんどうですかと提案できたらこの仕事はできると思います。

谷口秀作1

鏨(たがね)という細長い道具を使います。槌(つち)で打つんやけど、スポーンと取り去ってしまわないように鏨を組み合わせて、R(=カーブ)をつないでく。切るのにも、模様を入れるのにも鏨を使います。彫るっていうか、打ち込んでるんやね。合うものがなかったら、鏨をつくることもあります。鍛冶屋さんみたいに鋼材を焼いて、叩いて平べったくして、やすりで削って。

谷口秀作2

型を起こす時は鉛筆で。下絵は、頭の中にあります。何千、何万種類かも分からへん。絵が好きやからというて簡単なもんじゃなく、図案を描く時は悩むし、すごい時間がかかります。鉛筆で何回も描いて描いて、鏨に合うように調整してみたり。方針が決まったら、後は楽になるけどね。

砂川さんから新しい厨子(ずし)の話が来た時は、よそでは無いような難しいこと言ってきてーと思いました。イメージの写真があって、その小さい版をつくりたい、後はお任せしますって。花を彫るにしても、いちいち言われることは無いね。同じ花はおもろないなぁと思うから、いろんな花を選びます。平面で彫るし、色を着けられへんから、表現できるできへんはあるけどね。

屋台づくりは、ものづくりとしてはおもしろい。けども、体力を使います。金具で表現できるものづくりは、もっといっぱいある気がする。まだまだ上手になりたいし、多くの人に喜んでほしいです。実は僕、シンガーソングライターやってます。ステージ用の小物も自分でつくってね。(平成29年11月15日談)

略歴:昭和31年生まれ、昭和51年に錺金具の仕事に出会う。平成3年に独立、主に仏壇等の錺金具を制作。平成17年に第55回龍野市美術展工芸の部「鳳凰」入選、平成19年に兵庫県技能顕功賞受賞。