つれづれるままに

日記の部屋 (〜2/2)
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2010年2月2日(火)
ピーリング

というと美容業界で最近良く耳にしますが、本来皮を剥くこと。
いまのTOPページの作業もそうですが、修復の場合諸々の作業の前に状態を吟味しながら適宜旧い塗膜を剥がします。
このたびの檀尻は、特に勾欄(こうらん)・虹梁(こうりょう)などはニスかあるいは何某かのクリアー塗装が(組まれたまま)施されていまして、そのままではノリ(食い付き)が悪い、もっと言えば漆が固まらないとおもわれ全面剥離することにしました。


電動ベルトサンダーで’剥きすぎない’ように注意しながら素地を出していきます。この画像ではまだ残っているのがわかります。



右の六本が剥離完了の図。左二本は作業前で金具の痕がそのまま残っています。



1/9の日記でも紹介しました「アリ」や楔(くさび)の入った束(つか)など小さい部材もすべて行いました。
手前の四つは虹梁の上にくる平桁(ひらげた)。



柱の通る開口部の傍は力が加わって破断していました。もちろん補強し修復します。
この檀尻は担ぎ上げて時に水平に(真横に)寝かせて練ったりすると聞きました。その折確かに真下を向くところですので無理な荷重が掛かったのかもしれません。

上記の全て、現在は下地作業に入っております。



先月お預かりしました妻鹿屋台も分解後早速作業に入っております。手前は件の檀尻屋根です。





また、先日頂いた調度品の漆塗りのご依頼は「根来(ねごろ)塗りで」とのご要望です。本当の根来塗りとして池の上曙山(しょざん)先生という方もおられますので、正確には根来塗り風、です。 材は桐。

こちらの施主様にはたびたびわたしどもに漆塗りのご用命を賜っております。
いつも真に有難うございます。





2010年1月21日(木)
彫刻の繕い
 昨日お納めさせていただきました生矢神社・亀山狭間彫刻をこの項でご紹介しようとしましたが大きい画像で見ていただきたいこともあり、記事としました。

 日記の更新すらままならなくて、いつも訪ねてくださっている皆様にはずつなくおもっております。励ましのメールをくださる方まであり嬉しい限りです。
ありがとうございます。



 さて日頃、仕事をしていてふっ、と気の温まるときがあります。このあいだもありました。


 完璧な’ハート’。

洗濯(漆塗り完全修復)作業中のお仏檀のとある部分、
錺(かざり)金具を外したら目に留まりました。単に金具の透かし部分の形が塗り面の退色によって浮かび上がっただけのことですが、、

 贈り物です。


2010年1月16日(土)
無題

 壁 は、自分が本気かどうかを見ている。



2010年1月15日(金)
厨子製作その2
12月25日の日記の続き、
厨子の漆塗りの模様です。

糊漆で布を全面に貼っていきます。




それぞれの部位にきっちり沿うように切り出し、ヘラですごきながら余分を除き密着させていきます。



これは扉、出来るだけ継ぎ目が少なくなるように吟味します。



よく固まってから余分な布を裁断していきます。


このとき重宝するのが自作の刃物。甘くなった鑢(やすり)を研ぎ下ろし、刀状にしています。
もともと鑢なので刃こぼれも気にせずいろんなことにがんがん使えます。


屋根の部分。 複雑な曲面も隅々まで。


同じく台の部分。
隅のこのような様式を木瓜(もっこう)といいます。



仮組みしてみました。

スジ彫り、刻苧(こくそ)、刻苧削り、木固め、空研ぎ、布着せ、布削り、ここまでで工程としてはまだ四分の一以下。
まだまだ作業はつづきます。


2010年1月9日(土)
見えるもののとなりには

 12月初めから漆塗り作業を進めております檀尻、淡路からお預かりしています。
かなりの年代物(明治?)と見受けられ、昔の職人さんの丁寧な仕事に感銘を受けています。職人’魂’に打たれています。



 欄干を分解していました。
すこし構造をお分かりならご想像していただけると思いますが、普通男柱を外せばあとは上下に抜くだけで分解できます。

ところが今回、引っ張っても叩いてもびくともしない。すこし格闘してピンときました。

あ、久々の「アリ」かな。

上の画像を見てあそこやな、ってわかる人はきっと本職の方でしょう。



この短い束(つか)、これです。右にずれています。
正確には右に’ずらして’います。こうしないと外れません。
なぜか。



ホゾが三角状になっていて、



受ける側も同形状に刻まれています。



この画像で言うと手前に入れて奥に嵌めます。反対側(上側)も同じ。
組んだら上と下の欄干が固定され絶対に開きません。普通は長方形のホゾがささるだけなので引っ張れば抜けます。

また、左の丸で囲ったところも工夫されています。
男柱との接合部分に、正面から見て隙間が覗かないようにとの配慮。男柱側にこのホゾが入るホゾ穴が刻まれているというわけです。
ぜったいに隙間は見えません。


 勾欄がアリになっているのはわたしが始めてから(15年)で二台ほどしか出会っていません。

完成した様子は同じように見えても敢えて、少しでも丈夫になるように、とか、より綺麗に見えるように、
一手間、二手間(もっと ! )かかってもそうする。

こんな場面に遭遇すると「すごいなぁ・・」と、なんともいえない気持ちになります。出会えて嬉しい(??)、、とにかく幸せな気持ちになります。



 まだまだあります。
長い束(つか)のホゾも下から楔(くさび)が打たれ、ここもぜったいに抜けないようになっていました。(あい対するホゾ穴が末広がりに刻まれているわけです。)



抜く前の欄干を裏返して尻から。
良く見ると楔がわかります。



男柱との接合にも始めてみる金具がありました。
錺金具で隠れる中にわざわざ溝を掘ってあり、L字型の金具で各辺が止められていました。

さいしょ通例通り、錺金具が付いたままで抜こうとし抜けず、何故外れないかしばし考えていました。この隠しの金具の存在に気付けていませんでした。
わかったときなんだか謎掛けが解けたようで天国の作者の方と触れ合ったような気すらしました。


強度も欲しいけれど金具は見せたくない、

「この粋(いき)わかるかい?」

って声が聞こえてきそうです。
 ・・あるいはこのようなことが今と逆に当たり前の時代であったのか。。

(通常は青い線のところに普通のL字の金具が見えています。)


 見えるもののとなりには見えないものが微笑んでいる。



2010年1月4日(月)
また、始める
 明けましておめでとうございます。
みなさまはどんなお正月をお過ごしになられたのでしょうか。
わたしは両実家に挨拶に赴き、きのう雑事を済ませたらもう終わっていました。
本日仕事始めです。

 初詣は昨年につづき護国神社に参りました。
先日の七五三の折、父の、もう使われなくなっていた着物を仕立て直して着たところ、元来単純なもので、やられてしまいまして。
日本人はやはり和服!と俄か仕込みながら’目覚め’てしまい正月も袖を通しました。
下駄は正直慣れないものの、ほんとうに着心地がすがすがしく、寒風の下のつらさもなく良いお参りができました。
妻と息子にはフラレましたが。

 みなさま、本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます


追伸、なぜか仕事しているほうが体調がいいのは気のせい? 貧乏性??



記事upしています、良ければこちらからどうぞ。


2009年12月31日(木)
大きい晦日に

家で事務仕事をしながら妻の留守中子供を見ていました。
案の定、
あそんでー、あそんでー、言うのでおもいたち
むかしよく遊んだ割り箸鉄砲を造ってやりました。
よかった、一日中持って走り回ってますわ。


いつもいつもおうちにいなくてごめんな、ほんまのほんまはおまえらのためにがんばってるんやで


理念も理想も夢も、
家族の幸せに優先してはいけない。

自分を信じて一生をくれた妻と
その間に出来た子。
心底守るべきは、そこだ。

その上で自分は、決めた道をやはり求める。
わざわざ言うこともないが、一過性の流れにぶれない。
思い込んでるだけかもしれないけれど、
「その先」が見たくなってしまっている。

家族。
それがあるから勇気を持てる。


夜、道行く車や人があたたかいところに急ぐ光景は
文字通り光っている。
一年の最後の夜とあれば、さらに際立って見える。


来る年が、すこしでも人を想う心の多い年でありますように。

平成二十一年十二月三十一日、

この一年も誠に有り難うございました。



2009年12月26日(土)
エボニー
今日午後、外国のお客さまがお越しになりました。
アメリカから英語の教師として来日されているそうです。

英語は(半分ほどは)聞き取れたとしても
話す方は全くといっていいほどダメ。

もどかしさを抱えつつ
ご一緒の方に通訳していただきながら
「国際交流」(?)をさせていただきました。

その会話の中でひとつ賢くなりました。
よく言うエボニー(evony)って、黒檀のことって
ご存知でしたか?

ちなみに調べたら、
紫檀は英語で 'rosewood' だそうです。

なるほど !
I see!




2009年12月25日(金)
厨子製作

厨子のご注文を賜りました。
過去この日記で厨子についてご説明させて頂いたことがあるのでここに抜粋します。

「厨子とは仏壇ほどきちっと決まりごとにとらわれることなく、
手を合わせること、お祀りするものを大事に守ること、
を純粋に追求した「宝物を安置する箱」と考えられます。
ご本尊や、故人・御先祖様のご位牌はもちろん、
先立たれた方が大事にされていた御遺品を安置されてもいいとおもいます。
また愛されたペットをお祀りになることもできます。

なにも制約はありません。
「心のよりどころとなるかけがえのないもの」、の特別な安置場所です。

仏教が伝来し(西暦538年)、以来、
仏像を安置するためにもともとの厨子があり、
時代が下っていろいろと宗派がわかれそれぞれが確立し、
決まりごと(お祀りのしかた)ができました。

現在の仏壇はおおまかに、本山のお寺の内陣を再現したものであり、
厨子は御本尊(大事にされるもの全般)そのものをお祀りするところ、といえます。」


そのときお納めした厨子です。

シンプルな造形ながら存在感のある仕上がりに施主様には大変喜んで頂きました。



このたびの厨子は上記と同様のものを、天地だけ三寸弱延ばしたかたちです。
これから完成まで、40近い工程を追ってご紹介したいとおもっています。

まずは木地です。

ベニマツの無垢材、
仏檀の宮殿(くうでん)師、野田和穂師の製作です。




すっきり丁寧に造られています。



漆塗り開始。
まずは下地の前の拵え(こしらえ)です。

木地には継ぎ目があります。
その継ぎ目に「スジ彫り」をし「刻苧」をします。
刻苧(こくそ)とは生漆・米糊・挽き粉等を混ぜたもので、接合部を強めます。



刻苧がしっかり固まったら刻苧の余分を削り落とします(刻苧削り)。

そして「木固め」、生漆を全体にわたって塗りこみます。


つづいて「布着せ」をします。
木目をとめたり、全体の強度をあげるために漆を使い布で覆います。
麻布や木綿を着せます。

たとえばこの部分、

入り組んだ形に沿うように布を切り出し、


糊漆で全面に貼っていきます。

つづく



本日、カレンダーを発送しました。ご当選の皆様は到着まで今しばらくお待ちになって下さい。


さて、
なんで・・今??・、っていう不運。。

さきほど年賀状印刷中にプリンターが臨終。
中の、素人でも重要そうやとわかるベルトがなんと破断、

「お預かりいたしましても修理完了しお届けは年明けになります。」
綺麗なお声の窓口の女性。

まあ、そうやろ、、てことで新しいプリンタを買わないといけないはめになってしまいました。
ついてないっすね。





2009年12月15日(火)
手を合わせる

 こどもの頃、だけじゃなくもう大人と呼ばれる歳になってからでもしばらくは、
例えば映画を見たり、本を読んだりしておもわず泣いてしまった、ということなんかとんとなかった。

それがどう、今ではその類いの作品に触れたらただちにそんな感情になってひとりでに涙が頬を伝う。

それは
共感しているから、
その場面・状況が想像できるから、
自分ならどう思うやろうと考えるから。


まだまだ若輩者の36歳なれど、
すこしずついろんな経験も増え、また、多くの方々に見(まみ)えるようになると
ようやく’自分’というものを意識しだす。

といっても
自分が人にどう見られているんだろうとかいう青春時代の瑞々しいそれではなく、
自分には何ができるだろう、自分の役割とは、
といった
「社会の中の自分」に気を巡らす思考だ。


すると、この社会で自分は当然独りで生きているわけはなく、
そのことに実感を伴って気付き、
人の慈しみに気付き、自分の非力さに気付く。

見えなかったもの、見ようとしていなかったものが歩むほどに
順番に、そしてゆっくり顔を覗かせてくれる。

いま会える人に対してだけではない。
もう会えないあの人に対しても感謝の心を持てる。


折に触れ、感謝して自然に手を合わせている。
心の中でも良い、そんな気持ちを構えずにいつも持てたなら。




施して報いを願はず 受けて恩を忘れず

中根東里のことば