私信

戦略的昭和?

 

過去折に触れ何度も書きましたが、漆は適温適湿が必要です。

昨年の夏は著しい高温に悩まされました。

 

職場の高温には色んな要因が考えられますが、ひとつは正面の引き戸。
うちの店は南向きで、夏季は戸自体が直射日光で触れないほどのかなりの高温になっていました。ガラスを通過してくる熱も相当なものだと思います。

そのこともあり昨年末、祭りが終わってじっくり落ち着いてから、サッシごと戸をリニューアルしました。二重ガラスの高遮熱、下の部分も断熱材が入っている最新のもの。

その時の模様をご紹介します。

 

まずは旧サッシの取り外し。

現在の店は昭和45年に建てたものですが、戸やサッシは当時のままということはなく25年前くらいに一度替えています。

手際よくサクサク進む作業。

ほどなく終了。職人さんお二人で一日で済みました。餅は餅屋、さすがです。

 

さて交換工事は滞りなく進んだのですがひとつ課題が。寸法です。

旧サッシの幅より左右三寸半ずつ小さい。メーカーの生産している最大寸法を発注してもらったのですが、それでもこれが限界とのこと。

ということでサッシの左右に白木の部材が入っています。

このままでは浮いているので色を付けたい。

こんなときホームセンターに走っていては塗師屋が廃ります。ということで、自前で塗りました。

 

材料は柿渋。

柿の実から搾った汁を発酵させたもので、古来から建築の塗装に使われてきました。
塗ると強度が増す上に防水性を発揮し、同時に防腐効果もあります。ちょうど仕事で使う手持ちがありました。たまに漆塗りの下地の工程で使用することがあります。

柿渋だけでは色づきが足りないので(長年経つと色付きは増しますが)、ベンガラの粉末をうまく混ぜ狙う色味を調合します。

ベンガラとは鉄鉱石を原料とする天然顔料で、隠蔽力が大きく耐光性等が強い上に無毒。

天然材料にこだわっている塗師としてこの上ない天然材料コンビです。

 

少しずつ様子を見ながら塗っていきます。

ベンガラは混ざっているだけで、溶けているわけではないので、ムラなく塗り広げるのに少しコツが要ります。

 

良い感じに染まりました。

 

さて今回のサラの白木の着色のついでに、元々あった木も補修しました。ところどころ剥げていて、戸とサッシが新調されたのでみすぼらしさが気になってしまいました。

 

ここで『古色』です。

要は塗りつぶしてしまうのではなく、自然な‘ヤレ’具合を再現しながら色付けをしていこうということです。

主に黒ベンガラを使用。


(容器内の金色は関係ありません。)

難しいことではなく、加減だけです。適度に乗せない(染めない)ところをつくります。

 

作業前・作業後を何枚か。

 

いかがでしょうか。経年変化はそのままにはっきりと剥げている部分を補修できました。

自分的にはうまくいったように思っています。

 

さて話しは変わりますが、姫路にとある老舗の喫茶店のチェーンがありまして、先日久しぶりに訪ねることがありました。そちらは昔ながらの落ち着いた店内です。
経営者さんとは知合いで、私の少し上くらいのお歳。ともすると現代的な要素を取り入れるという選択も十分にされそうな御方ですが、あえて言いますとずっと変わらず「昭和」な喫茶店風情。

スターバックスやコメダやタリーズなどの今風のカフェとは明らかに違います。
私は、それはあえてそうしているという戦略ではないか、言うならば『戦略的昭和テイスト』かな、などと勝手に想い浮かべながらコーヒーを啜っていました。
そしてそれは見事にうまくいってらっしゃるようにお見受けします。

翻って、計らずもうちの店もそうだなと思いました。お越しになるお客さんに、落ち着くわぁなんて言って頂けたりします。

今回の店先の改修も大袈裟に言うところの『戦略的昭和』(笑)を踏み外さずにいけたように思います。

店といっても正味はほぼ職場ですが、いつまでも来て頂けやすく居心地の良い雰囲気を大事にしたいと思っています。